ラオスの絵本 「サルとトラ」   

トラはもりのなかのあばれもの。
サルはいつか、トラをやっつけてやろうとおもっていました。

あるひ、サルはトラにであいました。
サルはいいます。

「トラさん、おもしろいたいこをたたきにいきませんか?」
「おお、いいとも」

にひきはおおきなスズメバチのすのところへやってきました。

「これがたいこですよ」とサル。

トラはきにのぼって、スズメバチのすをたたきます。

・・・どうなったか、おわかりですね。



おこったトラは、サルをおいかけていきます。

サルはたけのこをたべていました。
そして、トラにいいます。

「たいこたたきのサルはほかのサル。ぼくはたけのこくいのサルだもの。ところで、トラさん、たけのこをたべませんか?まず、はじめに、トラさんがかわをむいてください」
「おお、いいとも」

サルは、はらいっぱいになると、「こんどはぼくがかわをむいてあげるばんです」と。
ところが、サルは、とげとげのかわのまま、たけのこをトラのくちにねじこんでしまいます。

・・・どうなったか、おわかりですね。



おこったトラは、サルをおいかけていきます。

サルはカニをほってたべていました。
そして、トラにいいます。

「たけのこくいのサルはほかのサル。ぼくはカニくいのさるだもの。ところで、トラさん、カニをたべませんか?まず、はじめに、トラさんがカニをほってくださいよ」
「おお、いいとも」

サルは、はらいっぱいになると、「こんどはぼくがほってあげるばんです」と。
ところが、サルは、おおきなカニをつかむと、カニのくちにつっこんでしまいます。

・・・どうなったか、おわかりですね。



おこったトラは、サルをおいかけていきます。

サルはみきのまがったおおきなきをささえていました。
そして、トラにいいます。

「トラさん、きをつけて。きがたおれそうなんだ。ぼくといっしょにきをささえてくださいよ。ぼくがつぶれたら、ぼくをたべることだってできなくなりますよ」

トラはサルといっしょにきをささえます。
サルはいいます。

「トラさんがここできをささえているあいだに、ぼくがつっかえぼうをさがしてきます。そしたら、ぼくをたべられるでしょう」

そこへ、カラスがとんできて、トラにいいます。
「まぬけなトラさん、きはたおれないよ」

トラはそうっとてをはなしてみました。
きはそのままたっています。



おこったトラは、サルをおいかけていきます。

そのころ、サルはうっかりあなにおちて、でられなくなっていました。

トラはおこっていいます。

「おい、サル。こんどこそ、おまえのことをくってやる」

サルはあわてていいます。

「トラさん、はやくあなにおはいりよ。そらがおちてきたら、つぶされちゃうよ」

そらはくらーくなっています。
トラはあわてて、あなにとびこみました。
でも、あなはちいさくて、にひきははいれません。

トラはえいっとサルを、あなのそとにけりだしました。
そして、いいます。

「これで、そらがおちてきてもだいじょうぶ」

・・・そうでしょうか?

『サルとトラ』2001年、ヤン・サン再話 安井清子訳 福音館書店

kokeko's memo:これまた、どこか親しみのあるストーリー。力では到底やっつけられない相手をこらしめるには「知恵」ですよね。東南アジアの猛獣といったら、トラ。そんなトラが次々とサルにやられるお話に、子ども達は目を輝かせて聞き入ったことでしょうね。"繰り返し"のパターンも、小さな子どもは大好きです。

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# by kokeko-13 | 2012-07-04 14:48 | ラオス文学

ラオスの絵本 「かたつむりとさる」   

むかしむかし。

たべものをさがしていたさるが、やはりたべものをさがしにきた、かたつむりにあいました。
さるは、かたつむりがのっそりのっそりはっているのをみて、そんなにのろのろはってたら、たべものをみつけられるわけないよなぁ、とばかにします。

すると、かたつむりはこういいます。
「そんなばかにしたふうにいうんなら、かけっこしてみようよ」

2ひきは、3かごにかけっこをすることになりました。
3つのやまと3つのたにをさきにこえたほうがかち、です。

うちにもどったかたつむりは、さっそく、しんるいえんじゃをあつめてそうだんします。



3かご。
いよいよ、かけっこのひがやってきました。

ふたりは「1,2,3」のかけごえでスタートします。

さるはくさをかきわけ、ちかみちをしてはしると、いちばんめのやまのなかほどまでやってきました。
さるはここでひといきいれて、かたつむりをよんでみます。

「おーい、かたつむり、おまえ どこまできた?」

すると、さるよりさきから、かたつむりの声がきこえてくるではありませんか。

「ここまできたよ、さるさんよー」

さるはびっくりして、また、かけだすと、やまのちょうじょうまでかけのぼって、かたつむりをよんでみます。

「おーい、かたつむり、どこまできたかい?」

すると、またしても、さるよりさきにいるかたつむりがこたえるではありませんか。

「ここまできたよ」

こんなことがつづきます。

さるは、かたつむりをおいこそうと、あんまりいそいではしったので、まだ3つめのやまにつかないうちに、くたくたになってはしれなくなってしまいました。



こうして、かたつむりはさるにかちました。
いっぽもはしったりしなかったのに。

でも、どうやってかてたのでしょう?

(こたえ)かたつむりはしんるいえんじゃてわけして、3つのやまと3つのたににちらばり、さるが「おーい!」ときいてきたら、さるよりさきにいるなかまが「ここまできたよ」とこたえる、そういうさくせんでした。

『かたつむりとさる』1994年 ヤン・サン話 安井清子訳 福音館書店

kokeko's memo:よく知られている「うさぎとかめ」に似たお話。"さる"と"かたつむり"というのが東南アジアらしいな~と思いました。シンガポールでよく見かけたかたつむりは、日本のかたつむりと少々姿が違っていましたっけ。やどかりのようなおうちを背負っていて、長さも6センチ程あって、大きかったです。背丈の低い子ども達にとって、地を這うかたつむりは親しみやすい存在でしょうね。それから、さるも身近にいましたね。シンガポール人のお友達の家に呼ばれておじゃました時、家の犬がワンワンと吠えて。お友達曰く、さるを追いかけているんだそうです。たしかに、庭に立つ木の上にさるがこちらを見ていました。

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# by kokeko-13 | 2012-07-04 14:31 | ラオス文学

花のゆくえ ⑭暗闇は晴れて<下>   

ミアルダイの待つ部屋へと急ぐボライ。ソック・スアンは笑顔で後からついてきた。

検事長室では、ミアルダイが窓際に立って外を眺めていた。彼女は以前のように、清楚な紺色のスカートと白い長袖のブラウスを着ていた。パネートと一緒に暮らしていたころの派手な服装とはまるで違う、学生らしい服装だった。

ボライは彼女に向かって歩いていった。

「ミアルダイ!お手柄だったね!…きみは本当に…。きみの行動を不審に思っていたんだが、そこを説明してもらえるかな」

「伯母様とパネート兄さんと一緒に暮らすようになってから、あたしは国の文化財を壊し、革命軍の名誉を傷つけている違法な商売のことを知ったの。あの人たちの行動に驚いてそして悩んだわ。許せないと思ったわ。それでボライさんに相談して意見を聞こうと思ってここに来たの。ちょうどその日、ボライさんがいなかったので、ボライの上司でパパの古い友人でもあるスアンさんにお会いしたのよ。このことをスアンさんに申し上げたら、パネート兄さんたちの様子をこっそり窺うようにおっしゃったの。はじめは、気乗りがしなくてどうしようかと思ったのだけど、スアンさんがいろいろ説明して下さって、警護をつけて下さるっていうことになって。だからあたしも国のために、社会の蛭となった親類とは縁を切ることにしたの。それに、もしあたしが過っていたら、どれぐらいあたしのことを考えてくれるのかって、ボライさんの気持ちを知りたくて、貯めそうと思ったのよ。だからスアンさんには、あたしの行動について秘密にしてもらってたの。ボライさんがいつもあたしのことを心配してくれているのが分かったわ。説得して正しい道に引き戻そうと努力してくれた。今度は、ボライさんが話しをする番よ」

「僕は奴らを追跡する任務を負っていたんだが、きみが奴らと親密になったのを見て、すごく心配だったんだよ。きみが堕落してしまうのじゃないかってね」

「あたしが一度過ちを犯しているからでしょう?」ミアルダイは微笑みながら言った。

ボライは彼女の鼻をはじいた。

「僕を言い負かそうとするなよ、ミアルダイ。きみのことを誤解していた。まったくこの数ヶ月、寝ても覚めても、きみのことが心配で心配で。きみから慰謝料でももらわないと」

「慰謝料ですって。それはあなたがソティーさんとの取り持ち役をしようなんて思ったことへの罰だわ。ああ、ひどいもんだわ。あんなでたらめなことをさせて」

「でもきみとソティーは、少しは気が合ってたんじゃないのかい?」

「冗談はよして。ボライさんはあたしのことなんて、ちっとも分かっていないのね。ああ!親がいない人生は闇夜だわ。人からいろいろ勘ぐられる苦しみをいつまで味わうのか」とミアルダイ。

「その言葉は本心かい?分かったよ。きみの闇夜に僕が光を照らしてあげる。今までの芝居は真実になるんだよ。僕を人生の伴侶として受け入れてくれないか?」

ミアルダイは呆気にとられて、ボライの顔をじっと見た。なんておかしなことを言うのだろう…夢を見ているのではないだろうか…では、チャンナーさんは?

ボライはミアルダイの両肩をしっかり掴んで言った。

「チャンナーのことだろう。今日は秘密にしていたことをすべて話すよ。彼女を連れてきたのは、きみの気持ちを試したかったからだ。実は彼女は僕の所属する軍機関の幹部と結婚している。彼らは強制結婚させられたんだ。それに僕はチャンナーのご主人と塹壕で生死を共にしていたし、人妻を奪うわけにはいかなかった。二人が小さな子どもの親にもなっていたこともあるし。ただ、待ち続けた無念さが募った。チャンナーは涙ながらに、自分の純粋な気持ちが残酷な集団のせいで台無しにされてしまったと話してくれたけどね。すべては、あのオンカーがめちゃくちゃにしたんだ。彼女のご主人は、僕とチャンナーのことを知ってショックを受けていた。彼はただ黙って、愛する妻の決断を待っていた。チャンナーは僕に謝った。夫の誠実な愛から身を引くことはできないと」

「でも言ったじゃない。チャンナーさんは未来の…」ミアルダイは恥ずかしくて言葉を言い終えることができなかった。

「将来の何?」ボライは微笑みながら、ミアルダイの顎を持ち上げ、自分の顔をまっすぐに見させた。

「確かにきみの前ではチャンナーは僕の将来の妻で、彼女の夫は亡くなったと言ったよ。それはきみの愛情を確かめるためだったんだ。でもはっきり言っておくけれど、僕はチャンナーを奪うことはしないし、他人の幸福を壊すつもりもない。喜んであきらめる。僕はきみのことを既に考え始めていた。以前から僕の気持ちの中できみのことが気になってはいたんだ。チャンナーに再会する前からね。彼女が僕の部隊に所属する人の妻になったと知って、きみとの距離は近づいた。だが一つ躊躇したのは、ソティーがいつもきみのことを気にしていて、きみのことがすきだって言うんだよ。僕はきみが彼に対してどのような感情を抱いているか分からなかった。僕はきみを好きでも、きみがソティーを好きだったら。だから言うのが怖かったんだ。不本意な同情はして欲しくなかったし。…だから僕は…」

「あたしの気持ちを試すためにソティーさんの仲立ちをしたのね」

「そういうことだね…。僕はチャンナーさんに頼み込んで作り話をしてもらい、ソティーからの手紙も渡して、きみの反応を待った。何もなさそうだったら、告白するつもりでね。きみは素晴らしい女性になった。でも結果はひどかった。僕はワケが分からなくなってしまったんだ。そこへパネートも加わって、さらにハック・サーンたちとのことも関係してきた。心が痛んだよ。母さんからきみが僕一人だけに純粋な気持ちを持っていると聞いていたから、きみのことが残念だった。だが今は違う。きみは僕が望んでいたことはすべて、僕の希望以上に果たした。きみは一人民として祖国に恩返しをして、素晴らしい功績をあげたんだ。おめでとう」

「それはあたしは何百万人ものカンボジア人に孤児の人生を与えた、裏切り者集団への怒りからよ。それとあたしたちの約束のため」

「素晴らしいな、ミアルダイ。僕たちはどちらかより上ということはない。僕はきみに助言し、きみはそれに倣う。きみが僕に報告し、僕は捕まえる。人生を共に歩んでいく約束をして欲しい。賛成してもらえるかな、ミアルダイ?」

ミアルダイはボライの射すくめるような鋭い視線を避けた。愛する男に直接返事をするなんてとてもできない。彼女にはカンボジア人女性の典型的な気質が残っていた。彼女はボライの手を振りほどくと外に飛び出して行ってしまった。



パネートたちの裁判が開かれた。彼らは法により罰を受けなければならなかった。判決の下る日は、ちょうどミアルダイの医療技師試験の結果発表の日でもあった。彼女は試験に合格し、奨学金を受けて友好国ベトナムで5年刊勉学を続けることになった。



その晩、ボライの希望でポリーの家で一泊することになったミアルダイ。彼女はすぐにベトナムに行くことになったので、ボライとはしばらく別れなければならないのだ。

二人はミアルダイの茂みに近い石のベンチに並んで座っていた。ボライはミアルダイの花を一輪折ると、ミアルダイの髪に挿して言った。

「もうすぐお別れだね。なんだよ、遠慮しなくてもいいじゃないか、ただそばに座ってるだけなんだから。きみに言っておきたいことがたくさんあるんだ。ミアルダイ、5年も離れてしまうなんて、本当に寂しいな。きみは?」

「あたしの心と魂はボライさんに託します。でもあたしは恋のために理想を捨てたり売ったりはしないわ。ボライさんと5年離れても、あたしの気持ちはいつもボライさんのそばよ。でも自分の可能性を高めるためには、感情を犠牲にしなければならないときもあるわ。たった今、岸を離れたばかりのカンボジアという船をみんなで作り上げていく、その一端を担うためにね」

「きみの考えは分かったよ。でも僕はいつもきみのことを想い、心配するだろう。やっと気持ちが通いあったばかりなのに、もう別れなければならないなんて」

「心配しないで。あたしの人生は、ボライさんという月の光で明るくなったわ。ずっとボライさんを探し求めていたあたしの心の歌を聞きたい?きっとあたしの気持ちが分かるわ」

♪輝く月は空に無く 花は乾き 胸はため息で張り裂けそう 体だけは生きてはいても 花は咲かずに落ちてしまう

いつ終わるともしれない闇 暗い人生に幸はない 希望をくれた父は亡くなり 私を憎む人さえ遠かった

だが今宵こそ月は昇り 孤独な娘の胸を照らし 明るい答を見せてくれた 私の闇は去り心は晴れた

黒雲おおう空のしたで ちぎれた心はもう癒えた 昔の過ちをとがめずに あなたが愛してくれるから

「ミアルダイ、きみにますます惚れたよ。きみは社会の暗黒の嵐の影響を受けた一人の女性に過ぎない。黒い嵐はミアルダイの花びらをめちゃくちゃにした。真の美しさを損なった。でもカンボジアの魔法の露が、萎れてしまったミアルダイの花びらを、美しく蘇らせたんだ。きみという花はいまや芳しい匂いを放ち、本当にミアルダイの花よりも香り高いくらいだ。きみのお父さんの遺言通り、僕はそれを大切にしていくよ。新しい革命の素晴らしい魔法の露の力でね」

「そうね。新しい革命の露は、吹き荒れる黒い嵐で傷めつけられた花を美しく生き返らせてくれた。そしてボライさんはこれからのあたしの人生を照らしてくれるただ一つの月。だってボライさんのおかげであたしの目は開かれ、素晴らしい露を受け取ることができたんですもの」

「一番重要なことをまだ言ってないんだ。別れる前に言っておきたいことは二つ。二つめのことは、もう返事をしてくれた。つまり僕がきみの人生におけるただ一つの月だっていうこと。でも一つめは、二つめのことよりも大切だ。それは僕たち二人の約束を守り続けるってことだよ。きみは自分自身のために、そして国家の将来のために頑張って勉強する。素晴らしいカンボジア女性として犠牲的精神をもって、あらゆる困難に立ち向かい、敵と友をはっきりさせる」

「ボライさんも任務をまっとうしてね。党の模範的な指導者として。人に恐れられるのではなくて、慕われる信頼される幹部として、どんな困難に対しても毅然として、人民と国家に対して誠実でいてね。あたしと競争よ」

「よし誓ったぞ。さあ、行こう。あ、待って。ちょっと耳を貸して」

ミアルダイが振り向くと、ボライは恋人の頬にすばやくキスをした。ミアルダイは振り向きもせずに走って行ってしまった。あとにはボライの笑い声だけが響いた。





『花のゆくえ』パル・ヴァンアリーレアク(Pal Vannarirak )著/岡田知子訳 1988年
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# by kokeko-13 | 2012-06-12 22:19 | カンボジア文学

花のゆくえ ⑭暗雲は晴れて<上>   

ミアルダイは変わった。彼女は派手な服を身につけ、金やダイヤで身を飾り立て、伯母パニーとパネートの命ずるままにハック・サーンのグループと密かに連絡を取り、行動を共にしていた。勉学からはすっかり離れてしまっていた。ボライの家族とは縁遠くなり、かつて敬愛していたポリーとも顔を会わせることがなくなった。

チャーヤー、マイ、ハック・サーンとの仕事がミアルダイの時間のほとんどを占めていた。一方、ボライは彼女の行動のすべて把握していた。彼は謀報活動もしており、ハック・サーンのグループを追っていたからだ。ボライはミアルダイが金や物質に溺れているのを悔しく思い、悩んだ。会って、彼女を正しい道に引き戻したかった。だが会うのは容易ではなかった。パネートの家に行くことはできない。それですべてのことがふいになる恐れがあった。学校に行っても、彼女はいつも忙しいと言い訳をしてはボライを避けた。



その日もボライはミアルダイを待ち伏せし、ミアルダイと話そうとしたが、彼女は立ち止まろうとしなかった。そして、自転車に乗ると、ボライの方を振り向いて美しく微笑んだ。ボライは厳しい顔をして唇を噛んだ。彼女がパニーとパネートに操られるままになっているのに腹が立った。ハック・サーンとパネートたちは追跡されているのだ。なんとかミアルダイを説得して、国を裏切り、人民を裏切っている悪人仲間から身を引かせたかった。彼らは軍幹部のごく一部を引き込み、商売のために国有車両を使って骨董品を密輸し、金儲けをしていた。新しい社会革新の移行期間を引き延ばし、新政府に対する人民の信用を落とすことに加担する奴らだ。ミアルダイはそのような人間の毒牙にかかっているのだ。



数日後、ハック・サーンの一味は全員捕まった。さらに骨董品を西側に運ぶためのトラックを提供した共犯の軍幹部3人も捕まった。これらの犯人を逮捕することができたのは、ある一市民から時刻、情報網、隠し場所についての通報が、関係機関にあったからだということをボライは知った。彼はその通報者のことを知りたかった。国家のために働いたその人物に心の中で敬意を表した。

副検事となったボライは、パネートたちの事件について書類を作成するように命じられた。彼は事件の資料に綿密に目を通して、ミアルダイの名前を探した。だが犯罪者たちの中に彼女の名前は見当たらなかった。不思議に思いながらも、彼女が罪から免れたことを喜んだ。

裁判のための書類を作成し終わってから3日後、ボライは座ってタバコをくゆらせながら、遥か遠くに思いを馳せていた。ミアルダイのことを思い返していた。ソコンがいつも娘を哀れんで許してやってくれと懇願した言葉を思い出した。そばにいるときはボライはいつでもミアルダイを助けてきた。だが遠くに離れてしまった途端、彼女は新しい国の青少年としての役割を忘れ、行き当たりばったりに自分の色を変えてしまたのだ。

そこへ、上司であるソック・スアンが入って来た。

「同志、この数日間、随分疲れただろう。今日は同志の疲れをとってくれるようないいニュースがある」

「検事長同志、今日はいやに冗談が過ぎますね」

「冗談ではないぞ、本当だ。パネート一味について通報してくれた人物を知りたくないかね?」

「あ、はい。その人についてはお聞きしたかったんです」

「同志がいつも気にかけている女性だよ。彼女は本当に聡明で、新しい時代の青少年に相応しい。勇気があり、愛国心がある。国家のためには家族間の感情をも迷わず捨てることができる人だ」

「女性ですって!すごいですね、同志。その愛国心には敬服いたします。それで、名前は?」

「ミアルダイだよ」

「ミアルダイ!」ボライは驚いた。「どういうことですか、同志?」
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# by kokeko-13 | 2012-06-12 21:35 | カンボジア文学

花のゆくえ ⑬思わぬ谷間<下>   

ミアルダイは伯母のパニーのところで贅沢な暮らしを始めた。パニーは彼女を可愛がり、彼女が身につけるための衣服やアクセサリーを買ってやった。ミアルダイは美しい花になった。

だが、ミアルダイの心は依然として晴れなかった。伯母たちは一体何の仕事をしているのか分からない。心の傷を癒そうとしてひたすら勉学に励むことだけを考えた。



ある日の夕方、ミアルダイが政治倫理の教科書を読んでいると、本から一通の手紙が落ちた。それはボライから渡されたソティーの手紙だった。渡されたときは落ち着かなくて、読むのをすっかり忘れていたのだった。

ミアルダイへ
 ミアルダイ。僕はきみとボライの関係についてはすべて分かっているつもりだ。そしてミアルダイの花がまだ蕾であることも知っている。親がいないのは僕も同じだ。だから孤児としての気持ちもよく理解しあえると思う。きみにことがかわいそうでならない。僕にきみという花を大切に菜漏らせて欲しいと思っているのだが、きみの気持ちはどうだろう・
 僕の役目が何か分かっていてくれると思う。きみはよく僕のことを誉めてくれたね。きみにさまざまな下らない誘惑に流されることなく、お父上の怒り、恨みを血肉として、党や国の路線に従って、行動に移している。
 きみのことが何より大事だ。この世で一番大切に思っている。きみの歩いている道は若者の規範となる道だ。きみは過去の過ちをすっかり消し去ることができた。きみのいく道は僕の道と同じだ。僕たちは一緒に幸せを築いていけるんじゃないかと思う。
 きみからの返事を期待している。そして伝統的作法に従ってきみに結婚を申し込む準備もできている。

国境前線にて ソティーより


「まあ!ソティーさんがあたしのことを好きだなんて!いいえ…、いいえ…、あたしの心にはボライさん以外の男性が入る隙間なんてないのよ。ボライさんと離れてから、あたしは敢えて独身で一生を過ごし、勉強だけを頼みに将来への架け橋を歩もうとしていたのに。そして壁のない牢獄からあたしを解放してくれた国家に、恩返しするために働こうと思っていたのに…。あなたは兵士の鑑、あなたの勇敢さは素晴らしい。あたしも見習いたい。でも人生の道をともに歩むことはできない。あたしは蕾のまま萎れてしまった花なのだから。愛に生きる人生はもう残っていない。暗闇のような人生を、国家を建設していくためにひたすら使うしかない。恋も愛も終わった。あたしは変わり者かもしれない。ソティーさんもパネート兄さんもあたしのことを好きだという。でもあたしの気持ちはボライさんから離れはしない。あたしは数々の過ちをボライさんにしてきたというのに、いつのまにか彼に夢中になってしまった。他のどんな男性も必要ではないの。ミアルダイの人生には、ただ一つ、ボライさんとの約束を果たすことだけにある。伯母様は懸命にミアルダイの花に芳しい香りをつけ、パネート兄さんの手の上で美しく咲くようにしむけてくれてるけれど、伯母様の望みは決して適わないわ」

彼女が物思いにふけっていると、パニーの叫ぶ声が外から聞こえてきた。

「ミアルダイ!服を着替えていらっしゃい。私と一緒に出かけるのよ」

「伯母様、どこへいらっしゃるの?」

「ハック・サーン社長のお宅よ。パネートがバッタンバンからまだ帰ってこないので、代わりに儲けの取り分の話に行くんですよ」

「伯母様お一人でいらして下さいな。お留守番していますから」

「何言ってるの、鍵をかけていけばいいじゃないの。あなたに商売のやり方を知って欲しいのよ。あなたがパネートと結婚したら、私はもう商売から手を引いて、あなたたち夫婦に任せようと思っているのだから」

「結婚ですって!」ミアルダイは叫んだ。

「そんなに驚くことないじゃないの。私はあなたのことが好きだし、パネートもそうなのよ。忘れたの?1975年に、私はあなたのパパにあなたをパネートにくれるよう結婚の申し込みをしたのよ。返事をもらわないうちに国がああなって、私たちも別れ別れになってしまった。今またこうして会えたのだから、今度は私があなたたちの人生を仕切りなおさないとね」

ミアルダイはひどく衝撃を受けた。彼女は伯母の顔をまじまじと見つめて何か言おうとした。

「難しく考えることないのよ。もし養って下さったお母さんに親孝行したいのなら、私があの方にあなたに対する正式な結婚の申し込みをしに行ってもいいのよ。それであの方をあなたの母親として結婚式にご招待してもよいのだし」

「伯母様…、私…、まだそんなことは何も考えていなくて…。勉強のことしか考えられなくて」

「あら、勉強なんかして何になるの?パネートはあなたのことを愛しているの。あなたを働かせはしないわ」

「伯母様、私は勉強して国のために働きたいんです。私自身も台所のことだけで終わりたくないんです」

「とにかく、このことについてあれこれ考えるのはよして、出かけるわよ。そのうち商売を始めて、実際に金を塊で目にするようになったら、私が言っていたことが正しいって分かるわ」



一軒の豪華な新築の家。ハック・サーンの家である。

「おや、本当にきれいだねえ。あんたのとこのお嫁さんは。利発そうなお顔だし」

前進を飾り立てた中年の女性マイ。

「これほどの美人ならやっとパニー夫人もご満足か。そうでなけりゃ、パネートも今まで待つわけないな。はっはっは」

ハック・サーン。中年の男性。

ミアルダイは恥ずかしくてうつむいたままだった。何も言わずに、ただみんなが話すのを聞いていた。

ハック・サーンは大きな包みを開けた。たくさんの金が見えた。

「今回は一人15ドムランが純益だ。それで次回は、少なくとも20ドムランにはなるな、パニー」

「あら、悪くないじゃない。あれぐらいの品物でこんなにたくさんになるとは思わなかったわ」

「品物は確かに少ないが、人気があるんですよ。彼らの欲しがっている年代の彫り物ばっかりですからね」と、若い男、チャーヤー。

「それで、我々の任務命令書に押した偽の判は、検問所では疑われなかったのね、チャーヤー?」

「疑われたりしやしませんよ。軍用トラックだし、軍の特別の判なんだし。俺とパネートは軍人証を持ってるし、軍服を着てるんですよ。どの検問所でも偽者だなんて疑いやしない。はっはっは」

ミアルダイは卒倒しそうだった。脂汗がにじんだ。なんということだ。伯母とパネートは、国家財産を食う蛆虫となって国を沈めようとしている。軍人の格好をして自分たちの悪行を隠そうとしている。彼らは国境の難民キャンプを経由して骨董品の密輸をしているのだ。ミアルダイは顔をこわばらせた。彼女は震える体を懸命に抑えた。国家の文化財を破壊し、社会を混乱させ、革命軍の名誉を傷つけている狼のような彼らに怒りを覚えた。ミアルダイが苦しそうな表情をしているので、マイは怪訝に思って尋ねた。

「どうしたのさ?そんな顔して」

「気分がよくなくて」とミアルダイ。

「まあ!気分が悪いの?取り分をいただいて、私はこの子を連れて帰って休ませます。家を出るときから乗り気じゃなかったものだから」

「ほら、持っていきな。この子の具合が悪いなんて全然気がつかなかった。あんまり素晴らしい成果だもんで、ついつい話し込んでしまった」

家に着くと、パニーはミアルダイにカオ・クチョルをしようとしたが、彼女は断って、薬を飲んで安静にしていた。

ミアルダイは伯母たちの違法な商売について思いをめぐらせた。ため息をつき、枕にうつぶせになると、しくしく泣き出した。

「あたしはどこへ行けばいいんだろう?ボライさんのところでは精神的に辛いし、ソティーさんの方へ行っても悩みが解決するわけではない。伯母様のところに駆け込んでみれば、火山の上で生きているよう…。ああ、この世には、あたしが雨露をしのぶ場所なんて、ないのね、パパ…」
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# by kokeko-13 | 2012-06-11 17:39 | カンボジア文学